着物をきていると、いざというときに度胸が据(す)わる。
五月晴れのある日、母が倒れて、集中治療室に入ったと連絡。
父が気がついたときには、すでに母の心臓は停止していたという。
喪服を持ってゆくには……可能性を信じて、着慣れた久留米絣に博多帯をキュッと締め、藍の木綿羽織をひっかけて、故郷にすっ飛ぶ。
福島は朝晩はひんやり、羽織は必需品。
母は電気ショックをかけたところ、心臓は動き出したという。しかし、自分で呼吸はしていない。
ついていてあげたいが……。
とりあえず、翌日、帰宅して、それから伊豆にすっ飛ぶ
何しろ、義弟の結婚式が待っている。
義弟は、私が脳腫瘍の手術の翌日、仕事が忙しいのに、励ましにきてくれた。たった一人の弟だから、そして身内だけのささやかな式だから、「欠席」にはしたくなかった。
黒留袖にお太鼓。じつは、いずれも人絹。めったに袖を通さない
着物だから、そして移動して、飲食もする
着物だから、ぜったい手入れが楽なものがいい。
普段の
木綿着物は、少々奮発しても、納得のいくものを手に入れてきた。だって、毎日、毎時間を快適に過ごすための
着物だから、こちらにはお金のかけ甲斐がある。
一方、義理でしかたなしに着る
着物に、見栄張るなんて無意味、というのが私の主義だから。
とにかくも、帯をキュッと結んで、伊豆にまっしぐら。
しかし……。
キレイな海岸線が見えたところで、「母が、いま息を引き取った」の連絡。
沈黙……。
襟を直して、帯をポン!と叩いて「とにかく結婚式に顔を出すから、車の進路はこのままで!」
※ ※ ※
夜中に自宅にもどって、さァ、次は喪服。
黒留袖は洗濯物置き場にポン。
とうぜん喪服も人絹。
黒帯を締めて、襟をシュンとして、さあ福島へ!
※ ※ ※
もし……。
私が
着物をきてなかったら、あんなドタバタに涙も流さず毅然としていられた保証はなかった。
着物を次々に着替えて、
木綿着物、黒留袖、喪服と、そのたびに、気持がシャンとして、冷静になれた。
着物をきてると、心がしっかりする。
※ ※ ※
着物で勝負。
人生を、ドンと大らかに勝負する。
勝負といえば――
そう、勝負腰巻。秋の風情バージョン。
(あ〜、母も天国で、あきれてるだろな〜。とっても堅い人だったから……。)
お羊屋さんオリジナル腰巻『腰巻美人』 綿100% (Photo&Model/Luliha)

先の浮世絵腰巻より、いくぶん腰当の巾が狭くなっています。
(お師匠様へ、メッセージ)「勝負腰巻の次は何で私を驚かせてくださりますか?」

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